社会人になっても競技を続けたい、地元で働きたい。そうした理由から、転勤の少なさを業界選びの軸にしたい場面があります。この記事では、厚生労働省の公的統計をもとに、転勤に関する数字を16産業で同じ物差しに並べました。ただし、ここでの順位はあくまで「業界の傾向」です。同じ業界でも会社ごとに事情は違い、特定の会社で転勤があるかないかを保証するものではありません。
この記事の数字の出どころと読み方
順位は、厚生労働省「令和7年度雇用均等基本調査」の事業所調査・第27表にある産業別の公表値を並べただけで、編集部の独自評価は入れていません。調査の概要は次のとおりです。
| 項目 |
内容 |
| 調査名 |
令和7年度「雇用均等基本調査」 |
| 実施主体 |
厚生労働省 |
| 公表日 |
2026年7月31日 |
| 調査時点 |
令和7年10月1日現在 |
| 対象(事業所調査) |
常用労働者5人以上を雇用する民営事業所(16大産業)から産業・規模別に抽出 |
| 有効回答 |
3,291事業所(有効回答率52.2%) |
この記事で使う区分は、次の3つです。3つと「不明」の合計が100%になります。
| 記号 |
区分 |
意味 |
| ① |
その他(事業所が一つしかない又は正社員全員に転勤がない) |
拠点が1つしかない、または正社員全員に転勤がない事業所 |
| ② |
勤務地限定正社員として勤務できる |
就業規則等で制度が明文化されている場合と、明文化はされていないが運用上限定できる場合の合計 |
| ③ |
勤務地限定正社員として勤務できない |
勤務地を限定する働き方が用意されていない |
読み方には注意点があります。
- 数字は事業所単位の割合です。会社全体の状況や、社員1人ひとりの転勤回数を示すものではありません。
- ①は「拠点が1つ」と「全員転勤なし」を合わせた値で、内訳は分かりません。
- 標本調査なので、小さな差で順位を細かく読まないほうが安全です。
- 業界別に「転勤の頻度」を直接比べた公的統計は、制作時に確認した範囲では見当たりませんでした。
(出典: 厚生労働省「令和7年度雇用均等基本調査」、統計表は事業所調査 統計表(Excel)の第27表)
転勤の少ない業界ランキング(転勤がない・拠点が1つの事業所の割合)
「事業所が一つしかない又は正社員全員に転勤がない」事業所の割合は、建設業52.4%、教育,学習支援業48.2%、製造業45.1%の順に高く、全産業の平均は33.4%です。
| 順位 |
産業 |
割合 |
| 1 |
建設業 |
52.4% |
| 2 |
教育,学習支援業 |
48.2% |
| 3 |
製造業 |
45.1% |
| 4 |
学術研究,専門・技術サービス業 |
44.6% |
| 5 |
鉱業,採石業,砂利採取業 |
41.8% |
| 6 |
サービス業(他に分類されないもの) |
38.4% |
| 7 |
医療,福祉 |
35.3% |
| 8 |
宿泊業,飲食サービス業 |
30.4% |
| 9 |
生活関連サービス業,娯楽業 |
29.8% |
| 10 |
金融業,保険業 |
25.9% |
| 11 |
不動産業,物品賃貸業 |
24.7% |
| 12 |
卸売業,小売業 |
24.4% |
| 13 |
情報通信業 |
23.4% |
| 14 |
運輸業,郵便業 |
21.5% |
| 15 |
電気・ガス・熱供給・水道業 |
14.0% |
| 16 |
複合サービス事業 |
9.4% |
| 参考 |
全産業 |
33.4% |
(出典: 令和7年度「雇用均等基本調査」事業所調査 第27表。順位は公表値をもとに編集部が高い順に並べたもの)
上位3つは、建設業が52.4%と唯一5割を超え、教育,学習支援業(48.2%)と製造業(45.1%)がそれに続きます。4位の学術研究,専門・技術サービス業(44.6%)までが全産業の33.4%を10ポイント以上上回っています(編集部算出)。理由までは、この調査からは分かりません。
下位は、電気・ガス・熱供給・水道業が14.0%、複合サービス事業が9.4%です。複合サービス事業は、郵便局や協同組合(農協など)が含まれる産業区分です。こちらも理由は分かりませんが、全産業の平均を大きく下回っています。
なお、この値が高いことは「その業界の会社に入れば転勤しない」という意味ではありません。あくまで事業所の割合であり、会社や職種によって状況は異なります。
勤務地を限定して働ける業界ランキング
「勤務地限定正社員として勤務できる」事業所の割合は、複合サービス事業54.0%、金融業,保険業48.6%、生活関連サービス業,娯楽業47.2%の順に高く、全産業では37.5%です。先ほどの①のランキングとは顔ぶれが大きく変わります。「転勤がない・拠点が1つの事業所が多い業界」と「勤務地を限定できる事業所が多い業界」は、別の物差しで見る必要があります。
| 順位 |
産業 |
勤務できる計 |
うち制度が明文化 |
うち運用上限定できる |
| 1 |
複合サービス事業 |
54.0 |
47.7 |
6.3 |
| 2 |
金融業,保険業 |
48.6 |
42.9 |
5.7 |
| 3 |
生活関連サービス業,娯楽業 |
47.2 |
22.8 |
24.3 |
| 4 |
卸売業,小売業 |
46.7 |
22.4 |
24.3 |
| 5 |
宿泊業,飲食サービス業 |
41.7 |
19.2 |
22.5 |
| 6 |
情報通信業 |
41.0 |
8.7 |
32.3 |
| 7 |
不動産業,物品賃貸業 |
38.1 |
14.8 |
23.3 |
| 8 |
運輸業,郵便業 |
33.8 |
15.5 |
18.3 |
| 9 |
医療,福祉 |
33.3 |
11.1 |
22.2 |
| 10 |
サービス業(他に分類されないもの) |
30.6 |
8.5 |
22.1 |
| 11 |
電気・ガス・熱供給・水道業 |
30.2 |
15.6 |
14.5 |
| 12 |
製造業 |
29.3 |
9.5 |
19.8 |
| 13 |
学術研究,専門・技術サービス業 |
28.2 |
3.0 |
25.2 |
| 14 |
鉱業,採石業,砂利採取業 |
27.6 |
5.5 |
22.1 |
| 15 |
建設業 |
26.2 |
6.0 |
20.2 |
| 16 |
教育,学習支援業 |
24.7 |
11.7 |
13.0 |
| 参考 |
全産業 |
37.5 |
15.8 |
21.6 |
(単位は%。出典: 令和7年度「雇用均等基本調査」事業所調査 第27表。内訳は四捨五入のため、合計が一致しない場合があります)
「明文化」は就業規則などで制度として決まっている状態、「運用上」は制度としては決まっていないものの、運用で限定できる状態を指します。金融業,保険業(42.9%)と複合サービス事業(47.7%)は、明文化の割合が4割を超えて高くなっています。一方、情報通信業は運用上の割合(32.3%)が大きいのが特徴です。
運用上の扱いは、配属や上司によって変わる可能性もあります。志望する会社に勤務地を限定する仕組みがあるかは、書面で確かめられるかを見ておくと安心です。
また、①で上位だった建設業(26.2%)、教育,学習支援業(24.7%)、製造業(29.3%)は、②では全産業の37.5%を下回っています。拠点が1つなど、そもそも転勤の機会が少ない事業所が多い一方で、制度として限定を用意している事業所は多くない、という見方もできます。ただし理由までは、この調査からは分かりません。
勤務地を限定できない事業所が多い業界
「勤務地限定正社員として勤務できない」事業所の割合は、電気・ガス・熱供給・水道業55.6%、運輸業,郵便業43.8%、不動産業,物品賃貸業37.2%の順に高く、全産業では28.7%です。
| 順位 |
産業 |
割合 |
| 1 |
電気・ガス・熱供給・水道業 |
55.6% |
| 2 |
運輸業,郵便業 |
43.8% |
| 3 |
不動産業,物品賃貸業 |
37.2% |
| 4 |
複合サービス事業 |
36.4% |
| 5 |
情報通信業 |
33.9% |
最も低いのは建設業の20.8%です。
複合サービス事業は、②の「限定できる」でも1位、③の「できない」でも4位に入っています。①の割合が9.4%と低いことと合わせると、転勤がありうる事業所が多く、そのなかで限定できる場合とできない場合に分かれている、と読むこともできます。この業界を志望する場合は、会社・職種ごとの確認がより大切になりそうです。
企業規模・拠点数で見る転勤
同じ雇用均等基本調査を事業所の規模別に見ると、規模が大きいほど「転勤がない・拠点が1つ」の割合は低くなっています。別の調査でも、正社員規模や国内の拠点数が大きい企業ほど、転勤の可能性が高い傾向が示されています。
まず、雇用均等基本調査(令和7年度 第27表)の事業所規模別です。
| 事業所規模 |
勤務地を限定できる |
限定できない |
転勤がない・拠点が1つ |
| 500人以上 |
37.2% |
52.2% |
9.9% |
| 100〜499人 |
41.7% |
40.8% |
17.5% |
| 30〜99人 |
45.4% |
32.1% |
22.0% |
| 5〜29人 |
35.9% |
27.6% |
36.1% |
「転勤がない・拠点が1つ」は、500人以上の9.9%に対して5〜29人では36.1%です。反対に「限定できない」は500人以上で52.2%と、規模が大きいほど高くなっています。ただし、これは事業所の規模であり、会社全体の規模とは異なります。
次に、労働政策研究・研修機構(JILPT)が2016年に行った調査です。常用労働者300人以上の企業を対象とし、有効回答は1,852社で、「正社員(総合職)のほとんどが転勤の可能性がある」企業の割合を見ています。
| 区分 |
「ほとんどが転勤の可能性あり」の企業の割合 |
| 全体 |
33.7% |
| 正社員300人未満 |
16.5% |
| 300〜500人未満 |
31.6% |
| 500〜1,000人未満 |
39.8% |
| 1,000人以上 |
50.9% |
| 国内転勤を要する拠点数 1〜19か所 |
32.3% |
| 20〜49か所 |
53.6% |
| 50〜99か所 |
59.5% |
| 100か所以上 |
68.9% |
同じ調査で、「転勤はほとんどない(転勤が必要な事業所がない)」企業は全体で27.1%、正社員1,000人以上の企業で14.8%、300人未満で43.7%でした。ここで注意したいのは、調査時期が2016年とやや古い点と、対象が常用労働者300人以上の企業に限られる点です。数字は参考程度にとどめてください。
(出典: 労働政策研究・研修機構(JILPT)「企業の転勤の実態に関する調査」調査シリーズNo.174、結果の概要はBusiness Labor Trend 2017年10月号)
これらを見ると、業界に加えて、志望企業の規模や拠点の数・場所も判断材料になりそうです。大手と中小の違いは大手企業と中小企業、どちらを選ぶかでも整理しています。
体育会の学生が転勤の少なさを重視するときの考え方
「なぜ転勤を避けたいか」を先に言葉にしておくと、業界・会社の絞り込みと面接での伝え方の両方を整理しやすくなる場合があります。理由ごとに、見るべき情報と確認先を整理しました。
| 転勤を避けたい理由 |
見るべき情報 |
確認先 |
| 社会人チーム・クラブで競技を続けたい |
練習拠点の近くに勤務地があるか、勤務地限定コースの有無 |
募集要項、OB・OG訪問、面談(競技を続けられる会社の選び方) |
| 地元で働きたい・地元に貢献したい |
地元に拠点があるか、拠点の数と場所 |
採用ページの拠点一覧、説明会 |
| 家族の事情がある |
転勤の範囲、勤務地限定コースへの変更の可否 |
労働条件通知書、面談 |
「どこで、何のために働きたいか」が先にあった例として、ツナカレのOB・OG取材記事から2つ紹介します。
- ある国立大学のアイスホッケー部出身者は、部活を最後まで続けながら就活したためエントリーした企業は約6社に絞られ、地元への思いからデベロッパー業界を志望したと話しています(OB・OGインタビュー、2026年1月の記事)。
- ある私立大学のボウリング部出身者は、地元に近い場所で働きたいという思いから、多様な業種の企業と関われる地域の金融機関を新卒で選んだと話しています(OB・OGインタビュー、2026年8月の記事)。
なお、金融業,保険業は②のランキングで勤務地限定の割合が高い産業でしたが、「地域金融なら転勤しない」と言えるわけではありません。あくまで個人の体験談で、同じ選び方をすれば同じ結果になるとは限りません。
志望企業の転勤を確かめる方法と聞き方
業界のデータで当たりをつけたら、最後は会社ごとに、書面と人の話の両方で確かめます。
書面では、2024年4月から、労働契約の締結時に就業場所・業務の「変更の範囲」を明示することが求められるようになりました(出典: 厚生労働省「令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます」)。労働条件通知書を受け取ったら「就業の場所」と「変更の範囲」を確認しましょう。見方は新卒の労働条件通知書の見方で解説しています。それ以前の段階では、採用ページ・募集要項で勤務地、エリア職・地域限定職などのコースの有無、拠点一覧を確かめられます。
確認する項目は、次のように整理できます。
| 確認項目 |
どこで見るか |
質問例 |
| 転勤の有無と範囲 |
募集要項、労働条件通知書 |
「転勤の対象となる範囲はどこまででしょうか」 |
| 転勤の頻度・1回の赴任期間の目安 |
OB・OG訪問、面談 |
「転勤は何年目ごろに、どのくらいの期間になることが多いでしょうか」 |
| 勤務地限定コースの有無と、コース間の違い |
採用ページ、面談 |
「勤務地を限定するコースはありますか。給与や昇進で違う点はありますか」(会社ごとに異なります) |
| コース変更ができるか |
面談、人事への問い合わせ |
「入社後に勤務地限定のコースへ変更することはできますか」 |
| 配属希望の聞き取りがあるか |
説明会、面談 |
「配属先を決める際に、希望を伝える機会はありますか」 |
| 住まいが変わる場合の住宅手当・社宅 |
募集要項、福利厚生ページ |
「転居を伴う異動の場合、住居面の支援はありますか」(住宅手当の業界別ランキングも参考になります) |
面接やOB・OG訪問での聞き方は、理由と前向きな意図を添える形が話しやすい場合があります。たとえば次のような例です。
- 「大学卒業後も社会人チームで競技を続けたいと考えています。入社後の勤務地や転勤の範囲について、差し支えない範囲で教えていただけますか」
- 「地元に貢献できる仕事がしたいと考えています。地元で長く働いている方は、どのようなキャリアを歩まれているのでしょうか」
- 「将来的に家族との生活も大切にしたいと考えています。勤務地を選べる制度や、配属の希望を伝える機会はありますか」
「転勤は嫌です」と条件だけを先に出すより、志望理由と両立したい事情をセットで伝えるほうが、相手も答えやすい場合があります。
まとめ
- 転勤が少ない業界(拠点が1つ・転勤なしの割合)と、勤務地を限定できる業界は、別のランキングになります。
- 業界だけでなく、企業規模や拠点数でも差が見られます。
- 最後は、労働条件通知書の「変更の範囲」とOB・OG訪問で、会社ごとに確認することが大切です。
業界の数字は、会社選びの入口として使うのがよさそうです。業界選びや転勤の聞き方に迷ったときは、体育会・学生団体の学生に特化したツナカレ就活の無料相談も使えます。
出典