引退後、限られた時間で進路を決めるとき、「離職率が高い業界は避けたほうがいいのだろうか」と迷う場面があります。結論として、離職率は1つの数字ではなく、産業・事業所規模・年次という3つの切り口で見え方が変わる統計です。この記事では厚生労働省とJILPTの公表データを出典付きで示し、数字を見る順番と、数字で分からない部分を何で補うかを整理します。

この記事で使うデータと編集部の選定基準

本記事は、編集部が官公庁と公的研究機関の公表データだけを選んで構成しています。選定基準は次の4点です。

  1. 厚生労働省の公表資料と、それを解説するJILPTの記事のみを使用する
  2. 編集部による独自アンケートや順位付けは行わない
  3. 個々の企業の離職率ランキングは扱わない(公開データで横並びに比較できる形になっていないため)
  4. 体育会学生に限定した離職率統計は制作時に確認した範囲では見当たらなかったため、全体統計を自分の状況に読み替える手順に絞って解説する

まず押さえる全体の数字|大卒の3年以内離職率は33.8%

直近の公表は令和4年3月卒業者を対象としたもので、大学卒の就職後3年以内離職率は33.8%、前年度から1.1ポイント低下しています(厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)を公表します」)。

学歴別に見ると次のとおりです。

学歴 3年以内離職率
中学 54.1%
高校 37.9%(前年度比0.5ポイント低下)
短大等 44.5%
大学 33.8%(前年度比1.1ポイント低下)

学歴によって水準が異なるため、大学卒として就職する場合は大学卒の行を基準に考えます。以降の産業別・事業所規模別・年次別の数字も、すべて大学卒のデータで統一しています。

この統計は何を数えているのか|雇用保険の記録から算定されている

この離職率は、学生への意識調査やアンケートではなく、雇用保険の加入記録をもとに算定されたものです。JILPTの解説によると、事業所からハローワークに提出された新規学卒としての雇用保険加入の届出記録から集計されています(JILPT 労働統計所在案内「新規学卒者の離職状況」)。

ここから2点が読み取れます。1つは、「辞めたいと思っている人の割合」ではなく、記録のうえで実際に離職した人の割合だということ。もう1つは、新規学卒として雇用保険に加入した人を対象にしているため、すべての進路をそのまま網羅した数字とは限らないということです。この前提を先に押さえておくと、以降の産業別・事業所規模別の数字も扱いやすくなります。

切り口①産業別|大学卒で最も高いのは宿泊業、飲食サービス業の55.4%

産業によって離職率は大きく異なり、大学卒では宿泊業、飲食サービス業が55.4%で最も高くなっています(JILPT『ビジネス・レーバー・トレンド』2025年12月号 国内トピックス、出典表記は厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(2022年3月卒業者)」)。

産業 3年以内離職率 前回からの増減
宿泊業、飲食サービス業 55.4% 1.2ポイント減
生活関連サービス業、娯楽業 54.7% 1.0ポイント増
教育、学習支援業 44.2% 2.4ポイント減
医療、福祉 40.8% 0.7ポイント減
小売業 40.4% 1.5ポイント減

この表を読むときは、次の3点に注意が必要です。

  • 産業大分類は区分が粗い: 同じ「小売業」でも、扱う商材や店舗の運営体制によって働き方は異なります
  • 産業の数字と企業の数字は別物: 志望企業がどの分類に入るかと、その企業自体の離職率は別の情報です
  • 低い側の産業の数値は本記事では扱っていない: 全産業の一覧は厚生労働省「新規学卒者の離職状況」資料ページの学歴別統計表で確認できます

切り口②事業所規模別|5人未満57.5%と1,000人以上27.0%で30ポイント以上の差

事業所の規模による差は、産業による差と同じくらい大きくなっています。5人未満の57.5%から1,000人以上の27.0%まで、30ポイント以上の開きがあります(出典は産業別と同じくJILPT『ビジネス・レーバー・トレンド』2025年12月号)。

事業所規模 3年以内離職率
5人未満 57.5%
5〜29人 52.0%
30〜99人 41.9%
100〜499人 33.9%
500〜999人 31.5%
1,000人以上 27.0%

読むときの注意点は2つです。これは「事業所」規模での集計であり、配属先の事業所規模が企業全体の規模と一致するとは限りません。また、産業別の数字も、その産業にどの規模の事業所が多いかという構成の影響を受けている可能性があります。

切り口③年次別|1年目12.1%・2年目11.9%・3年目9.9%

大学卒は3年間のうち1年目に極端に偏っているわけではなく、2年目もほぼ同じ水準です。年次別の3年以内離職率は、1年目12.1%、2年目11.9%、3年目9.9%となっています(出典は同じくJILPT『ビジネス・レーバー・トレンド』2025年12月号)。

引退直後は生活が大きく変わるため、入社1年目をどう乗り切るかだけに注目したくなる場面があります。ただ統計上は2年目の割合も1年目とほとんど変わりません。企業に育成やフォローの仕組みを尋ねるときも、入社直後の研修だけでなく、2年目以降に仕事の任され方がどう変わるのかまで聞いておくと、判断材料が増えます。

体育会学生が数字を見る順番|4ステップ

業界の数字を質問づくりに使い、事業所規模で条件をそろえ、個々の企業は公開情報で確認し、分からない部分は人に聞く、という順番が現実的です。

ステップ1:産業別の数字は「候補を外す」ためではなく「質問をつくる」ために見る

産業別の離職率が高いというだけでは、志望先から外す判断材料としては足りません。「その産業で高くなっている背景は何か」「志望企業にも同じ傾向があるのか」という質問をつくり、説明会や面接で確認する材料として使うほうが現実的です。業界の事業内容や将来性は業界研究のポイントも参考にしてください。

ステップ2:事業所規模をそろえてから比べる

事業所規模による差は30ポイント以上あり、産業による差と同じくらい大きく出ています。産業の数字だけを並べて比べると、規模の構成が異なる集団同士を比べていることになりかねません。産業別の数字を見たあとに、自分が受けようとしている企業の事業所規模が表のどのあたりに入るのかを確認しておくと、見え方が変わります。

ステップ3:個々の企業は公開情報で確認する

産業や規模の統計は目安であり、個々の企業の状況を示すものではありません。企業の採用ページ、有価証券報告書、就職四季報などの公開情報で、志望企業自体の数字と説明を確認しましょう。

ステップ4:数字で分からないことは人に聞く

統計は入社後の育成やフォローの仕組みまでは教えてくれません。OB・OG訪問や説明会で数字の背景にある取り組みを直接尋ねることが、公開データを補う手段になります。部のOB・OGに連絡を取れる状況であれば、その経路から話を聞ける場合もあります。訪問の進め方は体育会のOB・OG訪問のやり方にまとめています。

4つのステップを踏まえると、この統計で分かることと分からないことは次のように整理できます。

数字でわかること 数字ではわからないこと
産業・事業所規模・年次による離職率の傾向 志望する個々の企業の離職率
全体としての離職のタイミング(1〜3年目) 入社後の育成・フォローの具体的な仕組み
前年度からの増減の方向性 離職の理由や、辞めた人・残った人の事情

数字の背景にあるもの|企業の取材から見えること

同じ離職率という数字の背景にも、企業ごとに異なる事情があります。ここではツナカレメディアが取材した2社の例を紹介します。

株式会社エンジン(営業支援)は、ツナカレメディアの取材に対し、急拡大にともない社内の価値観にズレが生じ集団離職につながったことをきっかけに、採用方針を中途採用中心から新卒採用中心へ転換し、組織文化の再定義に取り組んだと語っています(株式会社エンジンの取材記事)。

株式会社エール(建設・施工管理)は、定着支援として、営業担当者が毎月仕事・人間関係・働き方をヒアリングし、入社3・6・12ヶ月の節目には技術部門がスキル面をチェック、6ヶ月以降は同期の再会研修で現状を共有する仕組みを持つと説明しています(株式会社エールの取材記事)。

いずれも取材した2社の例であり、どの企業も同じとは限りません。ただ、採用や定着の考え方を具体的に説明している企業もある以上、面接やOB・OG訪問で仕組みを尋ねること自体が不自然だとは限らないと考えてよいでしょう。

面接やOB・OG訪問で離職率をどう尋ねるか

「離職率は何%ですか」と単体で尋ねるより、育成やフォローの流れを尋ねるほうが具体的な答えが返ってくる場合があります。

質問の例です。

  • 新卒の方は入社後どのような流れで仕事を覚えますか(育成の全体像を知る狙い)
  • 配属はどのように決まりますか(希望とのすり合わせの有無を知る狙い)
  • 入社2〜3年目の方はどんな仕事を任されていますか(数年経った後の様子を知る狙い)
  • 新卒社員へのフォローの仕組みはありますか(定着支援の有無を確認する狙い)
  • 活躍している方に共通する特徴はありますか(自分に合うか判断する材料にする狙い)

尋ねるときは詰問にならないよう、質問の理由を一言添えることが大切です。長く働きたいからこそ知りたい、という姿勢で聞くと相手も答えやすくなります。就活の軸をどう決めるかについては就活の軸の決め方(体育会学生向け)も参考にしてください。

離職率データにまつわる3つの誤解

数字を単独で見ると、判断を誤りやすい場面があります。

1つ目は、「離職率が高い=働きにくい会社」とは限らないことです。産業ごとの構成や事業所規模の違いが影響している可能性があり、離職率の高さだけで働きやすさを判断することはできません。

2つ目は、全体平均の33.8%と個々の企業の数字を単純に比較できないことです。全体平均は産業も規模も異なる事業所をまとめた数字で、集計の前提が個社の状況とは違います。

3つ目は、「体育会出身者は辞めにくい」といった通説を裏づける公開統計が、制作時に確認した範囲では見当たらなかったことです。辞めにくい方向にも辞めやすい方向にも、断定できる材料は確認できていません。業界の向き・不向きを考える場合は、体育会に向いてる業界一覧も参考にしてください。

まとめ

離職率は、産業・事業所規模・年次という3つの切り口で見え方が変わる統計であり、1つの数字だけで企業の良し悪しを判断できるものではありません。まずは全体の33.8%を基準に置き、志望産業と事業所規模に近い数字を確認したうえで、個々の企業は公開情報とOB・OG訪問、説明会での質問で情報を補っていくことをおすすめします。

就活の進め方に迷ったら

ツナカレ就活では、体育会・部活動・学生団体の学生向けに無料の就活相談を行っています。無料就活相談に登録するからご登録いただくと、編集部よりメールでご連絡します。