「初任給30万円」という報道を見て、内定先や志望企業の初任給が高いのか低いのか迷う人もいるのではないでしょうか。平均(262.3千円)だけでは「真ん中の人」が分かりにくいため、厚生労働省の元表(新規学卒者第2表)の中央値と金額帯別の人数から、大卒初任給の分布を整理します。数字は月額で、年収ではありません。
この記事の数字の出どころ
使うのはe-Stat「新規学卒者第2表」の大学卒・男女計の所定内給与額の分布で、募集要項の初任給そのものではありません。
調査は厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査(16大産業・民営事業所・企業規模10人以上)で、2025年6月分の賃金が対象、公表は2026年3月24日です。新規学卒者は、原則として調査年3月に学校等を卒業している一般労働者です。
(出典: e-Stat 令和7年 新規学卒者第2表、厚生労働省「調査の概要・用語の解説」、用語の解説(詳細))
中位数(中央値)は賃金を低い順に並べて二等分した真ん中の人の賃金、第1・第3四分位数は四等分した区切り、第9十分位は「上位10%の境目」、第1十分位は「下位10%の境目」です。十分位分散係数は(第9十分位−第1十分位)÷(2×中位数)で、小さいほど分布の広がりが小さいことを示します。所定内給与額は、通勤手当・家族手当などを含み、超過労働給与額を除いた額です。
結論|大卒初任給の中央値は251.9千円、30万円以上は15.5%
令和7年の大学卒の中位数は251.9千円(約25.2万円)で、平均の262.3千円より10.4千円低くなっています(編集部算出)。
真ん中の半分(第1〜第3四分位)は232.6〜276.7千円、上位10%の境目は322.1千円、下位10%の境目は216.5千円です。300.0千円以上は15.5%で、6〜7人に1人ほどにあたります(編集部算出)。
大卒初任給の分布(金額帯別の人の割合)
令和7年は240.0千円以上の人が67.6%(編集部算出)を占め、前年に多かった220.0〜239.9千円の帯は28.3%から20.8%に減りました。
| 金額帯 |
令和7年 |
令和6年 |
| 200.0千円未満 |
2.9% |
6.2% |
| 200.0〜219.9千円 |
8.7% |
14.1% |
| 220.0〜239.9千円 |
20.8% |
28.3% |
| 240.0〜259.9千円 |
25.8% |
24.5% |
| 260.0〜299.9千円 |
26.2% |
18.6% |
| 300.0千円以上 |
15.5% |
8.3% |
| 労働者数(十人) |
27,540 |
29,221 |
(出典: 第2表(令和7年・令和6年)。割合は階級別の労働者数から編集部算出)
元表の階級(2.5〜40千円刻み)を、編集部が6つの帯にまとめました。260.0〜299.9千円は元表でも1つの階級で、他の帯より幅が広いため、帯どうしの割合の大小をそのまま「よくある額」と読むことはできません。
平均が中央値より高くなるのは、上側に偏りがあるため
300千円以上が15.5%いる一方、200千円未満は2.9%で、平均が中位数を10.4千円上回っており、高い側に偏りがある分布と考えられます。半数以上の人が平均を下回る計算になります。「平均より低い=少数派」とは限りません(平均の出典: 令和7年 結果の概況 16ページ 第10表)。産業別の平均は新卒初任給の業界別ランキングにあります。
前年からの変化|中央値は10.8千円、上位10%の境目は31.2千円上がった
分布全体が上に動き、特に上側が大きく伸びました。
| 指標 |
令和7年 |
令和6年 |
差 |
| 第1十分位 |
216.5 |
206.6 |
+9.9 |
| 第1四分位 |
232.6 |
223.1 |
+9.5 |
| 中位数 |
251.9 |
241.1 |
+10.8 |
| 第3四分位 |
276.7 |
261.7 |
+15.0 |
| 第9十分位 |
322.1 |
290.9 |
+31.2 |
| 平均 |
262.3 |
248.3 |
+14.0 |
| 十分位分散係数 |
0.21 |
0.17 |
+0.04 |
(出典: 上記第2表。単位は千円、差は編集部算出)
上位10%の境目の伸びは、中位数の伸びの約3倍で、十分位分散係数も0.17から0.21に広がりました。新卒どうしの初任給の差が、前年より開いた値になっています。30万円以上の割合も8.3%から15.5%へ増えています。なぜ上側が伸びたのかは、調査からは分かりません。1年分の変化なので、標本誤差の可能性も含めて読むのが無難です。
企業規模別の中央値と30万円以上の割合
規模が大きいほど、中央値も30万円以上の割合も高くなっています。1,000人以上は中央値261.9千円・30万円以上21.4%、10〜99人は237.3千円・7.7%です。
| 規模 |
中位数 |
第1〜第3四分位 |
30万円以上(令和7年) |
30万円以上(令和6年) |
| 1,000人以上 |
261.9 |
242.0〜290.6 |
21.4% |
12.9% |
| 100〜999人 |
245.2 |
227.8〜270.1 |
10.5% |
4.7% |
| 10〜99人 |
237.3 |
220.4〜257.7 |
7.7% |
4.4% |
(出典: 第2表(令和7年)。単位は千円。割合は編集部算出)
220.0千円未満は、1,000人以上が6.7%、100〜999人が14.3%、10〜99人が23.6%です(編集部算出)。ただ、10〜99人でも上位10%の境目は282.2千円あり、規模だけで個別企業の額は判断できません。選び方は大手と中小企業はどちらを選ぶ?で扱っています。
産業別の中央値と30万円以上の割合(15産業)
中央値が最も高いのは不動産業,物品賃貸業の268.0千円、最も低いのは複合サービス事業の231.9千円です。30万円以上の割合は学術研究,専門・技術サービス業の30.6%が最も高くなっています。
| 産業 |
中位数 |
第1〜第3四分位 |
30万円以上 |
| 不動産業,物品賃貸業 |
268.0 |
241.1〜290.2 |
20.3% |
| 学術研究,専門・技術サービス業 |
266.4 |
240.6〜323.3 |
30.6% |
| 建設業 |
261.6 |
240.6〜300.9 |
26.8% |
| 金融業,保険業 |
261.5 |
244.1〜277.2 |
13.1% |
| 製造業 |
256.4 |
234.9〜275.5 |
9.6% |
| 医療,福祉 |
255.0 |
226.6〜294.1 |
23.1% |
| 生活関連サービス業,娯楽業 |
250.4 |
231.2〜268.8 |
5.7% |
| 卸売業,小売業 |
249.1 |
231.4〜277.3 |
14.9% |
| 情報通信業 |
248.5 |
235.7〜275.3 |
13.6% |
| 教育,学習支援業 |
245.2 |
222.7〜269.2 |
11.3% |
| 宿泊業,飲食サービス業 |
242.5 |
223.0〜262.0 |
5.8% |
| 運輸業,郵便業 |
242.3 |
228.9〜256.5 |
7.3% |
| サービス業(他に分類されないもの) |
242.2 |
230.4〜268.8 |
4.7% |
| 電気・ガス・熱供給・水道業 |
241.0 |
227.2〜256.6 |
4.1% |
| 複合サービス事業 |
231.9 |
217.1〜253.4 |
-(元表で該当階級が「-」) |
| (参考)産業計 |
251.9 |
232.6〜276.7 |
15.5% |
(出典: 第2表(令和7年)。単位は千円。割合の算出と並べ替えは編集部で、おすすめ順ではありません。鉱業,採石業,砂利採取業は労働者数5(十人、約50人)と小さいため除外)
統計の「産業」は日本標準産業分類の大分類で、普段の「業界」と一致しない場合があります。
平均の順位と中央値の順位は入れ替わる
鉱業を除く15産業で比べると、情報通信業は平均6位から中央値9位、医療,福祉は平均3位から中央値6位、製造業は平均8位から中央値5位です(編集部算出)。
平均と中位数の差が大きいのは、学術研究,専門・技術サービス業(平均290.1・中位数266.4、差23.7)と医療,福祉(270.9・255.0、差15.9)、情報通信業(260.4・248.5、差11.9)です。製造業(257.5・256.4、差1.1)は差がほとんどありません。差が大きい産業では、高い額の人が平均を押し上げている可能性があり、平均だけを見ると「その産業の真ん中の人」より高く見える場合があります。
十分位分散係数は、学術研究と医療,福祉が0.28で最大、電気・ガス・熱供給・水道業と生活関連サービス業,娯楽業が0.12で最小です。産業によって初任給の幅が異なります。理由は、調査からは分かりません。
小さい区分は参考程度に
電気・ガス・熱供給・水道業は73、複合サービス事業は189(いずれも十人)と労働者数が小さい区分です。厚生労働省の調査の概要には「集計区分によってはサンプルサイズが少ないことにより、標本誤差が大きくなる場合があるため注意を要する。」とあります。
「30万円以上の企業は1.7%」という数字との違い
企業の数の割合と人の数の割合は、物差しが違います。
帝国データバンクの「初任給に関する企業の動向アンケート(2025年度)」では、2025年度の初任給を30万円以上とする企業は1.7%(前年度0.2%)でした。有効回答1,519社の企業単位の割合で、学歴の区分は公表資料で明記されていません(出典: 帝国データバンク)。
本記事の15.5%は、大学卒の新規学卒者という「人」の割合で、6月分の所定内給与額(通勤手当なども含む)です。1社で何十人も採用する企業と数人の企業が同じ1社と数えられる企業の割合とは、同じになりません。どちらが正しいかではなく、何を数えているかが違います。報道の数字を見るときは「何の割合か」「いつの何の額か」を確認すると、混同を避けやすくなります。
参考|大学院卒の中央値は295.9千円
大学院卒(令和7年)の中位数は295.9千円、第1〜第3四分位は268.8〜316.6千円で、300.0千円以上は46.5%(令和6年27.9%、編集部算出)です。労働者数は3,528(十人)です。大学卒とは人数も産業構成も異なるため、差をそのまま「進学の効果」とは読めません。
体育会・部活動の学生が内定先の初任給を比べるときの見方
中央値と四分位で位置を確かめ、額面だけで決めないのが現実的です。
内定先の額を分布に当てはめてみる
たとえば募集要項の初任給が240千円なら、大卒全体では第1四分位(232.6千円)と中位数(251.9千円)の間に入ります。1,000人以上に限ると、第1四分位(242.0千円)をわずかに下回る位置です。これは読み方の例です。ただし募集要項の額は基本給のみの場合があり、統計の所定内給与額は通勤手当なども含むため、範囲をそろえて比べます。
額面以外の軸も並べる
同志社大学ボウリング部OBは、新卒で地域金融機関を選んだ理由を「地元に近い場所で働きたいという思いがあったからです。」と話し、「地域に根ざした金融機関であれば活動エリアも比較的限定されており、地元に近い環境で働きながら、多様な業種の企業と関わることができると考えました。」と述べています(取材記事、ツナカレメディア、2026年8月28日掲載)。勤務地や関われる仕事の幅を軸にした一例です。軸の立て方は就活の軸の決め方(体育会向け)、業界研究は業界研究のポイントも参考になります。
比べる前にそろえたい3点
- 基本給と手当の内訳: 統計の所定内給与額は通勤手当なども含むため、基本給だけの額と並べると低く見える場合があります。
- 固定残業代の有無と時間数: 募集要項の初任給に固定残業代が含まれるかどうかで、同じ額でも中身が変わります。
- 勤務地による手当の違い: 配属先によって手当が変わる企業では、初任給の額が人によって異なる場合があります。
いずれも募集要項、説明会、OB・OG訪問で確認できます。複数の内定先を比べるときは、この3点をそろえてから分布に当てはめると、差を正しく読みやすくなります。
まとめ
令和7年の大卒初任給は、中位数251.9千円、真ん中の半分が232.6〜276.7千円で、30万円以上は15.5%(前年8.3%)でした。上側が大きく伸び、規模別・産業別にも幅が異なります。人の割合と企業の割合は物差しが違うため、報道の数字とは何を数えた値かを確認して比べてください。
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